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東京地方裁判所 平成10年(行ウ)160号 判決 1999年3月26日

東京都中央区日本橋浜町二丁目四五番四号

原告

株式会社タキオテック

右代表者代表取締役

新倉賢一

右訴訟代理人弁護士

菰田優

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

陣内孝雄

右指定代理人

清野正彦

廣戸芳彦

笛木秀一

山口貴志

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

別紙特許出願目録記載の各特許出願について特許庁が平成九年二月一〇日に受け付けた出願取下げが無効であることを確認する。

第二  事案の概要

一  本件は、別紙特許出願目録記載の各特許出願(以下、別紙特許出願目録記載の各特許出願をまとめて「本件各特許出願」という。)を行った原告が、本件各特許出願についてその後なされた出願取下げが無効であるとして、その無効の確認を求め、被告が本案前の答弁として、確認の利益がないことを理由に本件訴えの却下を求め、本案の答弁として請求棄却を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告は、平成八年八月六日、別紙特許出願目録記載1ないし3の特許出願を行い、同年一〇月一八日、別紙特許出願目録記載4の特許出願を行い、同年一二月四日、別紙特許出願目録記載5の特許出願を行った。

2  本件各特許出願については、出願人である原告名義の平成九年二月七日付け出願取下書が特許庁に提出され、特許庁長官は、同月一〇日、原告に対し、右出願取下書の受領書を発した。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

1  本件訴えに確認の利益があるか。

(一) 被告の主張

本件訴えは、過去の法律関係の確認を求めるものである。過去の法律関係の確認を求めることは、原告の権利又は法律的地位に現に存する危険又は不安を除去するために必要かつ適切である場合に限って、確認の利益が認められるところ、本件において、被告国との間において、仮に本件各特許出願の出願取下げの無効が確認されたとしても、その効力は、第三者である行政庁の特許庁には及ばないから、本件各特許出願の出願取下げが無効であることの確認を求めることは、原告の権利又は法律的地位に現に存する危険又は不安を除去するために必要かつ適切であるとはいえない。

本件各特許出願のうち別紙特許出願目録記載1ないし3の特許出願(以下「本件出願1ないし3」という。)については、後の出願で特許法四一条一項に基づく優先権を主張したものがあるから、本件出願1ないし3について、仮に出願取下げが無効であったとしても、本件出願1ないし3は、特許法四二条一項本文により、出願の日である平成八年八月六日から一年三月を経過した時に取り下げたものとみなされる。

したがって、本件訴えは、確認の利益がない。

(二) 原告の主張

行政庁は被告国の組織の一部であるから、本件各特許出願の出願取下げの無効が被告国との間で確認されれば、その効力は行政庁である特許庁に及ぶ。

したがって、本件訴えには確認の利益がある。

2  本件各特許出願の出願取下げは無効か。

(一) 原告の主張

(1) 本件各特許出願に係る発明(以下「本件各発明」という。)の発明者は河野直及び北田淳であり、河野は原告の代表取締役であり、北田は原告の取締役であった。河野及び北田は、本件各特許出願の前に、本件各発明についての特許を受ける権利を原告に譲渡した。

(2) 河野は、平成九年二月七日、原告の代表取締役として本件各特許出願の出願取下書を特許庁に送付し、特許庁は、同月一〇日、右書面を受け付けた。北田は、同月八日、原告の取締役を辞任し、河野は、同月一一日、原告の代表取締役を辞任した。

本件各特許出願を取り下げると、河野及び北田は、本件各発明につき再び特許出願をすることができるようになるから、本件各特許出願の取下げは、実質的には、原告が、河野及び北田に対し、本件各発明についての特許を受ける権利を譲渡するに等しい。そして、原告が河野及び北田に対し、本件各発明についての特許を受ける権利を譲渡する行為は、取締役と会社との間の利益相反行為となり、取締役会の承認がない限り無効であるから、取締役会の承認を経ずに行われた本件各特許出願の出願取下げは、無効である。

(二) 被告の主張

(1) 本件各特許出願は、いずれも出願公開前に取り下げられたから、出願取下げ後、原告は、本件各発明について直ちに再出願することができたものである。したがって、本件各特許出願の出願取下げは、原告が、本件各発明についての特許を受ける権利を河野及び北田に譲渡するに等しいということはできないから、原告の主張は、その前提を欠く。

(2) 本件各特許出願の出願取下げは、原告の代表取締役によって適式になされたものであるから、有効な取下げであり、取締役と会社との間の利益相反行為で、取締役会の承認がないからといって、取下げが無効になることはない。

第三  当裁判所の判断

一  本件訴えは、本件各特許出願について特許庁が平成九年二月一〇日に受け付けた出願取下げが無効であることの確認を求めるものであり、過去の法律関係の確認を求めるものである。

しかし、現在の法律関係の確認を求めることができる場合に、過去の法律関係の確認を求めることは、原則として確認の利益を欠くというべきである。

本件においては、仮に、原告主張のとおり、本件各特許出願の出願取下げが無効であり、本件各特許出願が有効であるとすると、特許庁長官は、特許出願の日から一年六月を経過したときは、特許掲載公報の発行をしたものを除き、その特許出願について出願公開をしなければならず(特許法六四条一項)、それにもかかわらず、特許庁長官が出願公開を行わない場合には、出願人である原告は、特許庁長官を被告として、本件各特許出願について出願公開を行わないという不作為の違法確認の訴えを提起することができ、これにより、現在の法律関係の確認を求めることができる。したがって、本件においては、このように現在の法律関係の確認を求めることができる以上、過去の法律関係の確認を求める本件訴えは確認の利益を欠くというべきである。

二  よって、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えは却下されるべきであるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

特許出願目録

1 出願番号 平成8年 特許願 第207377号

2 出願番号 平成8年 特許願 第207372号

3 出願番号 平成8年 特許願 第207367号

4 出願番号 平成8年 特許願 第276702号

5 出願番号 平成8年 特許願 第355503号

以上

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